ボルタレン(Voltaren)は**ジクロフェナクナトリウム(Diclofenac sodium)という成分を主とした非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)**だ。炎症、痛み、発熱を抑える薬の中でも“切れ味が鋭い”タイプとして知られている。
以下、薬理から臨床的な使い方、副作用の機序まで、少し専門的に掘り下げて説明しよう。
■ 成分と作用機序
ボルタレンの有効成分はジクロフェナクナトリウム。
これは「シクロオキシゲナーゼ(COX)」という酵素を阻害する。COXは体内で**プロスタグランジン(PG)**という炎症や痛み、発熱に関わる物質を作る酵素だ。
つまり:
COX阻害 → PG産生減少 → 炎症・痛み・発熱が軽減
COXには2種類ある。
- COX-1:胃粘膜保護、腎血流維持、血小板凝集など、生理的な機能に関与
- COX-2:炎症時に誘導され、痛みや腫れを引き起こす
ジクロフェナクはCOX-1とCOX-2の両方を抑えるため、強力だが副作用も出やすいという二面性を持つ。
■ 製剤の種類と特徴
ボルタレンには様々な形がある。それぞれ吸収速度や用途が違う。
- ボルタレン錠(25mgなど):内服タイプ。最も一般的。
- ボルタレンSR(徐放錠):ゆっくり吸収され、長時間効く。慢性疼痛向け。
- ボルタレン坐剤:直腸から吸収。胃を通らないため、胃障害を避けたい時に使用。
- ボルタレンゲル/ローション:局所用。筋肉痛、関節痛などに。
- ボルタレンテープ/パップ:貼るタイプ。整形外科でおなじみ。
坐剤は手術後の痛みや片頭痛にもよく使われる。吸収が速く、血中濃度の立ち上がりが早い。
■ 効果のある主な疾患
- 急性炎症性疾患(外傷後、術後)
- 関節リウマチ、変形性関節症
- 腰痛、神経痛、五十肩などの整形外科領域
- 痛風発作
- 歯痛、生理痛
- 偏頭痛(発作時の急性期治療)
NSAIDsの中でも鎮痛効果が強く、「ロキソニン(ロキソプロフェン)」より切れ味が鋭いと感じる人も多い。
■ 副作用と注意点
強力であるがゆえに、注意が必要。
- 胃腸障害(胃痛、胃潰瘍、出血)
→ COX-1抑制で胃粘膜の保護が減るため。胃薬(PPIやH2ブロッカー)を併用することが多い。 - 腎機能障害
→ プロスタグランジンが腎血流を保つのに必要なため、長期使用でリスク上昇。 - 肝障害
→ まれにAST/ALT上昇がみられる。 - 心血管系リスク
→ COX-2抑制が血小板機能や血管収縮に影響し、長期使用で心筋梗塞リスクが上がることが報告されている。 - アスピリン喘息
→ NSAIDsによりロイコトリエンが増え、喘息発作を誘発することがある。
■ 投与上のポイント
- 食後投与が基本(胃を保護するため)
- 長期連用は避ける
- 腎・肝障害、消化性潰瘍、心疾患、妊娠後期には禁忌または慎重投与
■ 他のNSAIDsとの比較
| 成分 | 鎮痛力 | 胃への刺激 | 持続時間 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| ロキソプロフェン | 中 | 中 | 6時間 | バランス型 |
| ジクロフェナク(ボルタレン) | 強 | 強 | 6〜8時間 | 強力・短期使用向き |
| セレコキシブ(セレコックス) | 中 | 弱 | 12時間 | COX-2選択型で胃に優しい |
■ トリビア的豆知識
- ボルタレンの名は「Volt(電圧)」+「Arthritis(関節炎)」の造語とされる。
- 世界初の発売は1973年(スイス・ノバルティス社)。日本では1980年代に登場。
- 鎮痛力が強く“即効性”の印象があるが、実際には血中濃度ピークまで30〜60分ほどかかる。
ボルタレンは、医師・薬剤師の間でも“強力な切れ味の両刃の剣”と評される。短期間で痛みを鎮めるには極めて有用だが、長期使用や体調不良時の自己判断服用は危険を伴う。


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