リリカ(一般名:プレガバリン、Pregabalin)は、神経の異常な興奮を抑える薬です。正式には「神経障害性疼痛治療薬」や「抗てんかん薬」に分類されますが、使われ方が非常に広く、現代医学では“神経の過敏をなだめる万能鎮静系”とでも言える存在です。ここでは、薬理学・臨床・副作用・依存のリスクまで徹底的に掘り下げましょう。
◆ 基本情報
- 商品名: リリカ(Lyrica)
- 一般名: プレガバリン(Pregabalin)
- 分類: 抗てんかん薬/神経障害性疼痛治療薬
- 開発: ファイザー社(米国)
- 日本発売: 2010年(当初は神経障害性疼痛用として)
◆ 作用機序(どんな仕組みで効くか)
リリカは、脳や脊髄の神経が興奮しすぎるのを抑える薬です。
ここで重要なのが「カルシウムチャネル(電位依存性Ca²⁺チャネル)」という神経のスイッチ。
- 神経が痛みやストレスなどで興奮すると、カルシウムチャネルが開いてカルシウムが流入。
- そのカルシウムが神経伝達物質(グルタミン酸、ノルアドレナリンなど)の放出を促す。
- プレガバリンは、このチャネルの“α₂δサブユニット”にくっついて、流入を抑える。
- 結果として、過剰な神経伝達をブロック=痛みや不安を軽くする。
つまり、**「痛み信号のボリュームを下げる」**薬。
“痛みを消す”のではなく、“痛みに過敏な神経を落ち着かせる”というのが本質です。
◆ 主な適応症
- 神経障害性疼痛
- 糖尿病性神経障害
- 帯状疱疹後神経痛(皮膚の痛みが長引くタイプ)
- 脊髄損傷後の痛み など
→ 神経そのものが損傷しているタイプの痛みに有効。
- 線維筋痛症
- 全身がこわばる、痛い、眠れないという原因不明の慢性痛。
- リリカはこの病気に対して、世界的に初めて承認された薬の一つ。
- てんかん(部分発作の補助療法)
- 単独で使われることは少ないが、他の抗てんかん薬と併用される。
- 不安障害(海外では)
- 日本では適応外だが、欧州では**全般性不安障害(GAD)**にも承認されている。
- 「不安な神経の暴走」を静める作用があるため、精神科領域でも重宝される。
◆ 服用方法・用量
- 一般的には1日2回。
- 開始は 25〜75mg/日 程度から、様子を見て最大 300〜600mg/日 まで増やす。
- 急に止めると**離脱症状(不安・不眠・頭痛など)**が出るため、減量は段階的に行う必要がある。
◆ よくある副作用
リリカは効く人にはとても効きますが、副作用もやや強めです。
代表的なのは以下:
- めまい・ふらつき(20〜30%)
- 眠気(10〜20%)
- 浮腫(足や顔のむくみ)
- 体重増加
- 注意力・記憶力の低下
- 倦怠感
- 口の渇き
神経の働きを“ゆるめる”薬なので、全体的にぼんやり・ふんわりする感じになります。
特に高齢者では転倒リスクに注意。
◆ 依存・乱用のリスク
これが最近、世界的に問題視されています。
リリカは本来“麻薬”ではありませんが、リラックス感や多幸感を得る目的で乱用される例が増えています。
特に海外では「Lyrica High」と呼ばれることもある。
日本でも厚労省が2022年に「乱用注意医薬品」に指定。
急にやめると、離脱として:
- 不安・焦燥
- 不眠
- 発汗・震え
- 吐き気
などが起こることがあります。
ただし、医師の指導のもとで段階的に減薬すれば安全にやめられます。
◆ 他の薬との違い
- ガバペン(ガバペンチン):リリカの“兄貴分”。作用は似ているが効き始めが遅い。
- トリプタノール(抗うつ薬)やサインバルタ(SNRI):痛みに対する効果はあるが、リリカほど即効性はない。
- リリカは**「神経性の痛み」**に特化しているのが特徴。
◆ 臨床のコツ・裏話的ポイント
- 効果を感じるまで1〜2週間かかることが多い。
- 血中濃度が安定すると、夜間の痛みやしびれ、不安感が軽減。
- 眠気を利用して夜だけ服用する方法もある。
- 鍼灸や理学療法と併用すると、痛みの改善が持続しやすいという報告もある。
つまりリリカは、
**「痛みの電線をゆるめる電気工事士」**のような薬です。
神経の信号がショートして火花を散らしているような状態を、静かに落ち着かせてくれる。
ただしそのぶん、全身の神経も少しゆるみ、頭も体も“のんびりモード”になります。



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