ロキソニン(Loxonin)は、日本では「痛み止め界の国民的スター」とも言える薬だ。
主成分はロキソプロフェンナトリウム(Loxoprofen sodium)。分類としては**非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)**で、ボルタレン(ジクロフェナク)と同じ仲間だが、性格がずいぶん違う。
ここでは、薬理学的な仕組みから副作用の理屈、臨床的な使い分けまでを科学的にかつわかりやすく語ろう。
■ 成分と作用機序
ロキソニンは**「プロドラッグ(prodrug)」**と呼ばれるタイプの薬。
これは「体に入ったあとで代謝されて初めて効くようになる薬」のことだ。
肝臓で代謝されて**ロキソプロフェン → トランス-OH体(活性代謝物)に変わることで作用を発揮する。
この活性体がシクロオキシゲナーゼ(COX)**を阻害して、**プロスタグランジン(PG)**の合成を抑制する。
結果として、
→ 炎症・発熱・痛みを鎮める。
つまりボルタレンと同じくCOX阻害 → PG抑制のルートだが、
ロキソニンは“胃でまだ不活性”なので、胃への直接刺激が少ない。これが「胃に優しい」と言われる理由だ。
■ 製剤の種類
ロキソニンは意外と種類が多い。
- ロキソニン錠(60mg):最も一般的。
- ロキソニンS/ロキソニンSプラス/ロキソニンSプレミアム:市販薬版(第1類医薬品)。
- 「Sプラス」には胃粘膜保護成分(酸化マグネシウム)が追加。
- 「プレミアム」は吸収促進成分+鎮静成分を配合。
- ロキソニンパップ/テープ:局所貼付剤。
- ロキソニンゲル:塗るタイプ。
- ロキソニン坐剤(処方用):手術後などに使う。
服用後、15〜30分で効き始め、効果は4〜6時間ほど続く。
この「即効性+短時間」という特徴が、急な頭痛・歯痛・生理痛にピタッとハマる。
■ 主な適応症
- 頭痛、歯痛、抜歯後痛
- 生理痛(原発性月経困難症)
- 関節リウマチ、変形性関節症
- 筋肉痛、肩こり、腰痛、五十肩
- 打撲、ねんざ、外傷後の炎症
- 発熱(解熱目的)
整形外科・内科・婦人科・歯科・外科…と、あらゆる科で登場する万能選手。
■ 薬理的特徴と強み
ロキソニンの真骨頂は「痛みを素早く、胃をなるべく荒らさずに鎮める」という点だ。
プロドラッグ型ゆえ、胃粘膜への直接刺激が少なく、COX-1抑制の程度もボルタレンよりやや弱い。
そのため、副作用発現率が比較的低い。
一方で、鎮痛効果のピークはボルタレンよりややマイルド。
つまり「長期使うならロキソニン、短期でガツンとならボルタレン」と言われることが多い。
■ 副作用
NSAIDs共通の注意点はもちろんある。
- 胃腸障害
胃の粘膜保護を担うCOX-1も抑えるため、潰瘍・出血のリスクあり。
胃薬(PPIやH₂ブロッカー)を併用することが多い。 - 腎機能障害
プロスタグランジンが腎血流を調整しているため、これを阻害すると腎血流低下。 - 肝障害
まれに肝酵素上昇。定期的な採血で確認することがある。 - アスピリン喘息
ロイコトリエンの産生増加により、喘息発作を誘発。 - 妊婦・授乳中の使用制限
妊娠後期は動脈管収縮のリスクがあるため禁忌。
■ 薬物動態(Pharmacokinetics)
- 吸収:経口後速やかに吸収、30〜60分で血中濃度ピーク。
- 代謝:肝臓で活性化(プロドラッグ → 活性代謝物)。
- 排泄:主に腎臓から尿中に排泄。
- 半減期:1〜1.5時間(短いが効果持続は長め)。
■ 他のNSAIDsとの比較
| 成分 | 鎮痛力 | 胃刺激 | 効果持続 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| アスピリン | 弱〜中 | 強 | 短 | 古典的・抗血小板作用あり |
| ロキソプロフェン(ロキソニン) | 中〜強 | 中 | 4〜6h | プロドラッグ・使いやすい |
| ジクロフェナク(ボルタレン) | 強 | 強 | 6〜8h | 即効・短期使用向き |
| セレコキシブ(セレコックス) | 中 | 弱 | 12h | COX-2選択的・胃に優しい |
| イブプロフェン | 中 | 中 | 4〜6h | 小児にも可 |
■ トリビア的知識
- ロキソニンは日本の第一三共が開発した純国産NSAID。1980年代から使われている。
- 海外ではあまり使われておらず、「日本独自進化を遂げた鎮痛薬」でもある。
- 「ロキソニン」という商品名は、**Loxoprofen + Antipyretic(解熱) + Analgesic(鎮痛)**を連想させる造語。
- 市販のロキソニンSは医師の処方と同じ成分・量(60mg)。日本ではかなり珍しいケース。
■ 臨床での使い分け
- 軽度〜中等度の痛み:ロキソニンで十分。
- 強い炎症・手術後痛:ボルタレンの方が有効なことも。
- 胃に不安のある患者:ロキソニン or セレコックス。
- 腎機能低下・高齢者:短期間・低用量にとどめる。
■ まとめ(本質)
ロキソニンは、
「即効性・安全性・使いやすさ」の三拍子が揃った“日本の標準NSAID”。
ただし、「安全」というのはあくまで他のNSAIDsと比べての話。
長期連用、空腹時服用、脱水時の服用は危険だ。
強力な刃は、扱い方次第で味方にも敵にもなる。


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