1. ネクサス(NEXUS)とは何か?
- 「Nexus」はラテン語で「つながり」「結びつき」。本書では「情報ネットワークによって形成される組織や秩序」の総称として使われます。国家・宗教・企業などの形態を問わず、ネットワークとして共通する構造を指す隠語といえる。
- ハラリは「情報は真実そのものではなく、接着剤のように人々を結びつける」という視点を強調し、従来の「情報=真実」という素朴な見方を批判します。
2. 情報の機能と「素朴な情報観」批判
- 情報には「真実を見つける」「秩序を維持する」両側面があり、個人は前者を、社会は後者を求める傾向がある。
- インターネットやシリコンバレーに代表される「情報は多ければ多いほどよい、情報=真実」 という信念は「素朴な情報観」。これにより企業や国家はビッグデータ収集やAIによる支配を推進しており、偽情報や操作が蔓延する危険があると警鐘を鳴らします。
3. 自己修正システムとホメオスタシス
- ネクサスが持続的に機能するためには、「自己修正機能(可謬性の認知と修正)」が不可欠です。生命のホメオスタシス(恒常性)と同じく、情報ネットワークも間違いを正す仕組みが必要だと説きます。
- 歴史的には、宗教・聖典・官僚制度・科学・憲法などがその役割を果たし、人類はそれにより大惨事を防いできたと説明します。
4. AIと非有機的ネットワーク
- 第2部では、AIが「非有機的ネットワークの新メンバー」として本格的な役割を担い始めている点を論じます。
- AIは単なるツールではなく、自律して考え、決定する「エージェント」として機能しつつあり、その性質は「Artificial Intelligence(人工知能)」ではなく「Alien Intelligence(全く異質な知能)」と呼ぶべきだと主張。
- 特に、「常時オン」で動き、偏見や狂信を増幅させ、ブラックボックス化するAIは監視国家とリンクし、民主社会を内側から壊す可能性があると警告しています。
5. 政治への影響:民主主義 vs 全体主義
- ハラリは、AIが物語(ナラティブ)と官僚制という民主主義の中核機能を代替しつつあると指摘し、AIが議論や説明責任を担う民主主義の未来を脅かすと論じます。また、全体主義的な監視・操作・抑圧の手段としてAIが使われるリスクにも警鐘を鳴らします。
- 「シリコンのカーテン」という比喩を使い、国家間のデータ制御や情報戦が新たな分断を生む可能性も示唆します。
6. 解決策:「自己修正メカニズム」の強化
- ハラリは、「無謬性の幻想」を捨て、自己修正機能を持つ制度、つまり民主主義の法制度と権力分立、報道や学問の自由を守ることを最も強く推奨します。
- AIの偏見や暴走には、人間介在の可謬性と「説明を受ける権利」を組み込み、常に見直し可能なネットワーク構造を設計する必要があると締めくくります。
🔍まとめ
- Nexus = 情報によって結束されたネットワーク
- 情報≠真実、素朴な情報観の危険性
- 自己修正システム = 持続への鍵
- AIはAlien Intelligenceとしてネットワークに参入
- 民主主義と全体主義の均衡が、市場と国家の課題に
- 答えは、不可謬性の否定と自己修正機構の制度化
この書は『サピエンス全史』『ホモ・デウス』を踏まえつつ、情報とAIという視点から人類史を再構築した、歴史家としてのハラリの最新作です。
その鋭い想像力と現代への警鐘は、特にテクノロジーと政治、社会秩序の関係を考える時に極めて重要な洞察を与えてくれます。
「NEXUS 情報の人類史 上: 人間のネットワーク」ユヴァル・ノア・ハラリ (著)
コメント