『オルカン思考: 世界経済を味方につける「長期投資」の教科書』著者の代田秀雄氏は、三菱UFJアセットマネジメント前常務で、eMAXIS Slimシリーズ、とりわけオルカンの誕生に深く関わった人物です。
**オルカン(オール・カントリー)**とは、
世界中の株式にまるごと分散投資できる投資信託です。
「どの国・企業が将来伸びるか分からないから、世界全体に投資する」という考え方の商品です。
まず、この本を一言でいうと
「未来を当てようとするな。世界経済そのものを長期で所有し、時間を味方につけろ」
という本です。
ただし、単に
「オルカンを買って放置しましょう」
という商品紹介の本ではありません。
著者自身も「オルカン思考」は特定の投資信託を所有することがゴールではないと説明しています。
本当に伝えたいのは、
世界経済の成長 × 長い時間 × 分散 × 低コスト × 継続
を組み合わせて、投資を「人生を豊かにする仕組み」にすること。
この思想を「オルカン思考」と呼んでいます。(学研)
第1章
「1億円貯まる長期投資」の力
ここが本の土台です。
著者が強調するのは、
投資で大金を作るために重要なのは「高い利回りを当てること」ではなく、「長期間市場に居続けること」
という考え方。
① 複利は「時間」が最大の武器
例えば、
- 元本100万円
- 年率5%
なら、
10年後:約163万円
20年後:約265万円
30年後:約432万円
40年後:約704万円
となります。
つまり後半になるほど、
自分が入れたお金より、過去の利益が利益を生む力
が大きくなっていく。
これが複利です。
だから著者は、
「いくら儲かる商品を探すか」
よりも
「何年市場に居続けられるか」
を重視します。
② 「1億円」は意外と途方もない数字ではない
本では長期積立の具体例として、かなり印象的な数字が紹介されています。
たとえば、
毎月2万8000円を35年間
積み立てる。
元本は、
2.8万円 × 12 × 35
= 1176万円
です。
ところが、一定の運用利回りが得られれば、最終的には約1億円を目指せる計算になります。
ここで重要なのは、
1億円の大部分を「自分の給料から出す」のではなく、時間と複利に働いてもらう
という発想です。
③ だから「利回りを追いかける」のは危険
例えば、
A商品:年7%
B商品:年9%
だったら、普通はBを選びたくなります。
でも問題は、
その9%を35年間維持できるのか?
ということ。
さらに、
「今年は20%上がった!」
「来年はもっと上がる!」
というものに飛びつくと、下落局面で怖くなって売ってしまう。
すると複利が途切れます。
著者が重視するのは、
最大利益ではなく、途中で脱落しないこと。
ここが非常に重要です。
④ 最大の敵は「暴落」ではない
意外ですが、
暴落そのものより、暴落したときに自分が市場から逃げること
を問題視しています。
例えば、
株価が50%下落。
怖くなって売却。
その後、市場が回復。
でも、
「もう少し様子を見よう」
と買い戻さない。
これで大きな上昇局面を逃す。
つまり、
暴落 → 売却 → 回復を逃す
というパターンが長期投資では非常に危険。
実際、著者は「市場に居続ける」ことを繰り返し強調しています。(学研)
第2章
「なぜオルカンを作ったのか?」
ここは、単なる投資理論以上に面白いところです。
① オルカンは突然生まれたわけではない
著者は1985年から資産運用業界に入り、約30年間、年金資金や投資信託などの運用業務に携わってきました。
そこで見えてきた問題があります。
日本では、
「投資=危険」
というイメージが強かった。
特に、
- バブル崩壊
- ITバブル崩壊
- リーマン・ショック
などを経験したことで、
「株は怖い」
という感覚が一般化していました。
2009年当時、日本の個人金融資産に占める投資信託の割合はわずか3%程度だったと著者は振り返っています。
② そこで「投資を特別なものにしない」
という発想が出てきます。
普通の投資商品は、
「このファンドがすごい!」
「このファンドマネージャーが優秀!」
という売り方になりがち。
でも著者が目指したのは逆。
誰でも、簡単に、長期間、低コストで投資できる商品。
つまり、
投資を「一部の詳しい人のもの」から「普通の人の生活の一部」にする。
これがeMAXIS Slimにつながっていきます。
③ 低コストへのこだわり
長期投資では、
手数料が毎年かかる
というのが非常に重要です。
例えば、
年0.1%と年1%。
たった0.9%の差に見えます。
しかし、
20年、30年、40年
と続くと、複利の差が巨大になります。
だから、
「低コスト」は単なる安売りではなく、長期投資家の利益を守る仕組み
だと考える。
これがeMAXIS Slimの思想です。
④ 「業界最低水準の運用コストを将来にわたって目指し続ける」
という思想もここにつながります。
つまり、
投資家から取るコストをできるだけ減らして、投資家側にリターンを残す。
これは長期投資ではものすごく重要です。
第3章
「長く持つ力」
ここが本の核心。
① 株式は「会社の成長」に参加するもの
株式投資というと、
「株価が上がったら儲かる」
と考えがち。
でも著者の考え方はもっと根本的。
企業は、
- 商品を作る
- サービスを提供する
- 利益を生む
- 再投資する
- 成長する
という活動をします。
世界中の企業が経済活動を続けることで、
世界経済そのものが成長していく。
その成長の一部を株主として受け取る。
だから、
世界経済の成長に乗る
というのがオルカンの本質です。
② 「どの国が勝つか」を予想しない
ここがオルカン最大の強み。
例えば、
「これからはアメリカだ!」
と思ってS&P500に集中する。
あるいは、
「インドが次の大国だ!」
とインド株に集中する。
あるいは、
「中国復活!」
と中国株に集中する。
でも、
未来は誰にも分からない。
そこで、
「勝者を予想する」のではなく、「勝者が入れ替わっても持ち続けられる仕組み」
を作る。
これが全世界株式。
③ オルカンは「未来の勝者」を自動的に入れてくれる
これが個人的には本書最大のポイントです。
例えば現在、
アメリカ企業が世界経済を支配している。
でも50年後は分からない。
インドかもしれない。
東南アジアかもしれない。
アフリカかもしれない。
あるいは今は存在すらしない企業かもしれない。
オルカンは時価総額に応じて構成銘柄が変わっていきます。
つまり、
今の勝者を買うだけではなく、将来の勝者が成長すれば自然に組み入れ比率が上がっていく。
これが、
「未来を予測する必要がない」
というオルカンの思想です。
④ だから「オルカン思考」は投資だけの話ではない
ここがタイトルの「思考」の部分。
著者の考え方は、
「自分が未来を全部予測しなくても、変化する仕組みに乗ればいい」
というもの。
これは投資だけではありません。
人生でも、
「この会社が絶対安泰」
「この業界が絶対伸びる」
「この技術が絶対勝つ」
と決め打ちするのではなく、
変化することを前提にする。
これがオルカン思考。
第4章
「投資は増やしながら使いなさい」
ここが普通のインデックス投資本と少し違います。
「資産形成=死ぬまで売らない」ではない
投資の目的は、
資産額の最大化ではありません。
最終的には、
人生で使うこと。
例えば、
1000万円を2000万円にする。
でも死ぬまで使わなかった。
だったら、
「何のための1000万円だったの?」
という話になります。
そこで著者は、
増やしながら使う
という考え方を提示します。
① 出口戦略は「最後に考える」のでは遅い
投資を始めるとき、
「どう買うか」
ばかり考えます。
しかし本当に重要なのは、
「どう使うか」
です。
例えば、
60歳で3000万円になった。
そこからどうする?
全部売る?
毎月取り崩す?
配当だけ使う?
現金化してしまう?
この問題を考える。
② 「資産を取り崩す=失敗」ではない
これはかなり重要。
投資家の心理として、
「せっかく増えた資産を減らしたくない」
があります。
でも、
資産は使うために作るもの。
例えば、
3000万円を持っていて、
毎年100万円使う。
残った2900万円を運用する。
それでも運用益が出れば、
資産を完全に使い切らずに生活費を補うことができます。
つまり、
資産形成 → 資産活用
へ切り替える。
第5章
「人生を味わうための投資」
ここで本の思想がかなり哲学的になります。
投資の目的は、
「資産額ランキングで勝つ」
ではない。
投資は「人生の選択肢」を増やすため
例えば、
資産が増えれば、
- 嫌な仕事を無理に続けなくていい
- 働く時間を減らせる
- 家族との時間を増やせる
- 趣味に使える
- 病気や事故などの不測の事態に備えられる
- 老後の不安が減る
など、
お金そのものではなく「自由」が増える。
だから投資は、
人生の主導権を取り戻すための手段
という位置づけです。
これが出版社が説明する「オルカン思考」の中心的な部分でもあります。(学研)
第6章
投資Q&A
最後は実践編。
ここでは、
- インデックス投資
- パッシブ運用
- 高配当株
- S&P500
- FANG+
- 暴落
- オルカン
- 長期投資
などについて考え方を整理します。
S&P500についての考え方
面白いのが、
著者はS&P500を否定していません。
例えば米国株式市場に投資したいなら、
S&P500は合理的な選択
という考え方です。
つまり、
「オルカン以外はダメ」
ではない。
ここは結構大事。
FANG+との違い
FANG+のような少数の大型成長企業に集中する商品と、
S&P500やオルカンのような広範囲の市場を持つ商品では、
リスクとリターンの性格がまったく違う。
集中投資なら、
当たったときは大きい。
しかし、
外したときのダメージも大きい。
一方でオルカンは、
「大当たり」を狙わない代わりに、
世界経済全体の成長を取りに行く。
暴落について
本ではリーマン・ショック級の危機も扱っています。
リーマン・ショック時には世界株式市場が高値から6割程度下落したことを例として挙げています。
つまり著者は、
「オルカンなら暴落しない」
などとは言っていません。
むしろ、
暴落することを前提に、それでも持ち続けられる設計にする。
という考え方。
これはかなり重要です。
では「オルカン思考」の5本柱をまとめると
僕なら本書の思想をこう整理します。
① 世界経済を信じる
人類が、
- 技術革新
- 人口増加
- 生産性向上
- 企業活動
を続ける限り、
世界経済は長期的には成長する可能性が高い。
② 勝者を予想しない
アメリカか?
インドか?
日本か?
中国か?
分からない。
だから、
全部持つ。
③ 時間を味方につける
短期の株価は予測困難。
でも、
長期で企業が利益を生み続けること
には期待できる。
だから、
「今日上がるか?」
ではなく、
「20年後も持っているか?」
を見る。
④ 投資を仕組み化する
毎回、
「今買うべき?」
「暴落した!」
「売ったほうがいい?」
と考えていたら続かない。
だから、
積立+低コスト+分散
という仕組みにする。
投資判断を減らす。
⑤ 最終目的は「人生」
これが最重要。
資産を増やすことが目的ではない。
資産を使って、
自分の人生を豊かにすることが目的。
ここが面白い。
オルカン=「未来の勝者を自分で選ばない」
例えば今、
NVIDIAが凄い。
だからNVIDIAを買う。
でも20年後、
NVIDIAより凄い会社が出てくるかもしれない。
オルカンなら、
その会社が世界的な企業になった時点で組み入れられていく。
つまり、
「未来のNVIDIAを探す」
必要がない。
オルカン
「未来は分からない。全部持つ」
この本の最大のメッセージ
この本の一番重要なところは、
「何を買うか」より「どういう投資家になるか」
ということです。
例えば、
S&P500が上がる
↓
S&P500に乗り換える
インドが上がる
↓
インドに乗り換える
NASDAQが上がる
↓
NASDAQを増やす
暴落する
↓
怖くなって売る
これを繰り返すと、
「未来を当て続けるゲーム」
になります。
一方、オルカン思考は、
世界経済は長期的に成長する
↓
世界全体を持つ
↓
定期的に積み立てる
↓
暴落しても続ける
↓
時間を味方につける
↓
必要になったら使う
という、
「未来を当てなくても成立するゲーム」
に変える。
本書を一枚の図にすると
世界経済の成長
↓
世界中の企業の利益成長
↓
株式市場の長期的成長
↓
全世界に分散投資
↓
低コスト
↓
積立
↓
長期間保有
↓
複利
↓
資産形成
↓
必要なときに使う
↓
人生の自由度が上がる
これが「オルカン思考」です。
そして、かなり重要な「誤解」
この本は、
「オルカンなら絶対儲かる」
という本ではありません。
むしろ、
株式投資には大きな下落がある
ことを前提にしています。
リーマン級なら世界株が6割程度下落することもあり得る。
だから本当の意味での「オルカン思考」は、
「暴落しない商品を探す」ことではなく、「暴落しても投資を続けられる自分と仕組みを作る」
ことです。
最後に、本書を「10か条」に圧縮すると
- 未来は予測できない
- だから勝者を当てない
- 世界全体を持つ
- 低コストを徹底する
- 短期の値動きを気にしない
- 市場から逃げない
- 積立で仕組み化する
- 時間と複利を最大の武器にする
- 資産は増やすだけでなく使う
- 投資の目的は、金持ちになることではなく人生の選択肢を増やすこと

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