『動物感覚 アニマル・マインドを読み解く』テンプル・グランディン著

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テンプル・グランディン著『動物感覚 アニマル・マインドを読み解く』は、動物行動学と心理学に基づき、動物たちの感覚や心を深く理解することを目指した本です。自閉症でありながら動物行動学の専門家として活躍する著者の視点から、動物たちの感じ方や考え方を探る内容となっています。以下に詳しくまとめます。


著者について

テンプル・グランディンは、自閉症を持ちながら動物行動学者として注目され、特に家畜の福祉改善に貢献しています。彼女は、自身の「映像的思考」(物事を言葉ではなく視覚イメージで捉える能力)が動物の感じ方に近いと考え、それを動物理解に応用しています。


本書の主な内容と構成

第1章:動物の感覚の世界

  • 動物は人間よりも優れた感覚(視覚、嗅覚、聴覚)を持つことが多い。
  • 例として、犬は嗅覚を駆使して複雑な情報を得る一方、牛や馬は視覚に頼りつつ環境を細かく観察する。
  • 動物は感覚刺激に非常に敏感で、細かな変化を察知することで危険を回避している。

第2章:動物の記憶と学習

  • 動物は「感覚的記憶」を持ち、体験を五感を通じて記録する。
  • 例えば、牛は痛みを伴った体験(特定の場所や音)を長期間記憶し、その記憶が行動に影響する。
  • 動物の学習は基本的に「連合学習」に基づき、特定の刺激と結果を結びつける形で進む。

第3章:恐怖と感情のメカニズム

  • 動物は恐怖に強く反応し、恐怖は彼らの行動を大きく支配する感情である。
  • 動物の恐怖を軽減するためには、環境を安定させ、予測可能な状況を提供することが重要。
  • 例えば、屠畜場において動物が無駄な恐怖を感じないように設計することが、彼女の研究と設計活動の核心部分。

第4章:動物のコミュニケーション

  • 動物は音声、ボディランゲージ、嗅覚など、多様な手段でコミュニケーションをとる。
  • 犬のしっぽの振り方や猫の耳の向きなど、行動の細部に感情が反映されている。
  • 人間が動物のコミュニケーションを理解するためには、細やかな観察が必要。

第5章:動物と人間の関係

  • 動物と人間は互いに影響を与え合う存在であり、特に家畜動物においては人間の接し方が彼らのストレスや健康に大きく関係する。
  • 優しく接することで動物のストレスが減り、より良い行動を引き出せる。
  • 動物を訓練する際には、明確で一貫性のある指示が重要である。

第6章:動物の知性と創造性

  • 動物の知性は人間とは異なる形で発揮される。
  • 例えば、カラスやイルカは問題解決能力が高く、道具を使うなどの創造的な行動を示す。
  • 動物の知性を評価する際には、人間的な基準ではなく、動物独自の基準を用いるべきだと主張する。

著者の主張とメッセージ

  1. 動物の感覚世界を理解することの重要性
    動物は人間とは異なる感覚と認識を持つため、彼らの視点を理解することが必要である。これにより、動物福祉や訓練の質が向上する。
  2. 環境の重要性
    動物の行動や感情は、環境に強く影響される。適切な環境設計は、動物の恐怖やストレスを軽減し、より良い生活をもたらす。
  3. 人間と動物の相互関係
    人間が動物を正しく理解し、接することで、動物と人間双方にとって有益な関係を築くことができる。

本書の意義

この本の著者テンプル・グラディン女史は
動物行動学の博士であり、アスペルガー症候群
(知的障害を伴わない高次自閉症)です。
ダスティ・ホフマンが映画『レインマン』にて役作りの為
彼女を元を訪れたこととでも有名です。
(映画の人物はサヴァン症候群)

彼女は自閉症であるが故に、普通の人とは違う感覚を持ち、その感覚は動物たちの感覚に非常に似ていることに気づきます。
そして、その感覚に基づいて思考することにより、
動物の気持ちや世界をどのように捉えているかがわかるそうです。

動物の持つ特殊な感覚とは、
普通の人が見過ごしてしまう微細な情報を捉える能力です。
飼い主の発作を30分も前に予測する犬、
数百箇所の及ぶ木の実の隠し場所を正確に把握しているリス、
30キロも離れた仲間とコミニュケーションがとれる象、
人がライフルを家の中へ取りに行った時だけ逃げるカラス・・・

驚異的な感覚ばかりなのですが
女史が言うには抑制されているだけで、人間にもこれに近い能力が元来具わっているそうです。
たとえば・・・
『レインマン』をご覧下さい。

本書を読んでいて非常に好感が持てるのは
人間と動物を対等に見ている点です。
場合によっては動物を上位において思考を展開されることもあります。

特に興味深いのは
「人間がオオカミを飼い慣らし犬に変えた話は有名ですが、最新の研究では、オオカミの方が人間を飼い慣らし、人間はオオカミと共に進化した」という学説です。

にわかには信じがたいですが、
この説を基にすれば非力なはずの原始人が繁栄できた理由や、ネアンデルタール人が絶滅した謎など、人類史上のミッシングリンクが補完されます。

この説がまとまりだしたのは
今まで、人間と犬との共生が一万四千年前の犬の埋葬により確認出来ていたのですが、それより遥か以前の10万年前の人骨の周りから多くのオオカミの骨が発見されたことにより、その頃より共同生活をしていたのが窺えるようになったからです。

おそらく、共同生活の中で当時の人類がオオカミのように思考し行動するように学んだのではないかと推察されます。
たとえば、
オオカミは集団で狩りをしていたが、人間はしていなかった。
オオカミは複雑にな社会構造があり、人間には無かった。
オオカミには同性の非血縁者のあいだで誠実な友情関係があり、人間にはなかった(現在の他の霊長類にも無い)
オオカミは縄張り意識がきわめて強く、人間は縄張り意識が弱かった。
などなど。
そして、あらゆる種は飼いならされると脳が小さくなり一部が退化するのですが,人間が犬を正式に埋葬しだした約1万年前から、犬の脳が10%以上退化しだすのだが、同じように人間の脳も10%ほど小さくなっていることが確認されている。
面白いのは人間で退化した部分が犬では発達し、犬で退化した部分が人間では発達している点です。
このことからお互いが仕事を分担し、よき友として暮らしていたことが窺えます。
そういえば、もののけ姫も山犬さんとお友達でした。
人間と犬とは切っても切れない関係なのかもしれません。
私は猫派ですが・・

本書でもう一点、もの凄く興味深い話は
動物が

「目に見えない偉大なもので、形あるものとは別の大切なもの」

として、‘神’という概念を先天的に理解しているお話しなのですが、さらに長ーくなりそうなので、また今度。

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