『実用鍼灸治療学 ― 鍼灸師のためのABC理論』中野保 著
全体の核心
「鍼は効く。でも、効かせ方を知らない鍼灸師が多い」
この本の一番大きなメッセージはここです。
著者は、
- どこに刺すか
- 何本刺すか
- どれくらい深く刺すか
よりも、
「身体の反応が起きるポイントを理解して治療を組み立てること」
を重要視しています。
つまり、
「痛い場所に刺す」
↓
ではなく
「痛みを作っている身体システムを変える場所に刺す」
という発想です。
第1章 二天堂式ABC理論
A・B・Cとは?
本書では身体を3つの視点で整理します。(ビューティガレージ)
① 3つのエリア
A:体幹
腰・背中・腹部など。
身体の中心。
特に重要視されるのが、
- 大腰筋
- 脊柱周囲
- 骨盤周囲
です。
理由は、
体幹が崩れる
↓
四肢への負担が増える
↓
肩・膝・足などに症状が出る
という考え方。
B:四肢
腕・脚。
例えば坐骨神経痛なら、
「足が痛い」
ではなく、
「足に症状を出している原因はどこか」
を見る。
C:頭部
首・後頭部・頭部。
特に、
- 後頭下筋
- 頚部筋群
を重要視します。
肩こり・頭痛との関連ですね。
② 3つの神経枝
本書の特徴的な部分です。
身体の反応を見る時に、
① 脊髄神経前枝
主に体の前側。
② 脊髄神経後枝
背部・脊柱周囲。
③ 交感神経枝
内臓や血管、自律神経反応。
この3つが連動しているという考え方。
つまり、
腰痛=筋肉だけ
ではなく、
神経・血流・内臓反射まで含めて考える。
③ 3つのフロントコア
この本の目玉部分です。
著者が特に重要視する筋。
1. 斜角筋
首の深部筋。
関係する症状:
- 首こり
- 肩こり
- 腕のしびれ
など。
2. 大腰筋
腰痛治療では非常に重要視。
大腰筋は、
- 腰椎
- 骨盤
- 股関節
をつなぐ筋。
問題が起こると、
- 腰が伸びない
- 立ち上がり痛
- 腰が抜ける感じ
などにつながる。
3. 梨状筋
坐骨神経痛との関連。
梨状筋周囲の緊張
↓
坐骨神経への刺激
↓
臀部痛・下肢症状
という考え方。
④ 3つの生体反応
鍼刺激で起こる反応。
1. 神経反射
鍼刺激
↓
神経入力
↓
脳・脊髄反応
↓
筋緊張変化
2. 内分泌反応
刺激によるホルモン・化学物質反応。
3. 免疫反応
身体の修復反応。
つまり鍼を、
「筋肉に穴を開ける刺激」
ではなく、
「身体の調整システムを起動する刺激」
として見る。
⑤ 3つのペイン分類
痛みを3種類に分類します。
1. 筋肉痛
特徴:
- 押すと痛い
- 動かすと痛い
- 重だるい
治療:
筋緊張改善。
2. 神経痛
特徴:
- しびれ
- 放散痛
- 電気が走る
治療:
神経走行・圧迫部を見る。
3. 関節痛
特徴:
- 可動域制限
- 深部痛
治療:
関節周囲の調整。
⑥ 深鍼のターゲット
本書では特定部位への深い刺激を重視します。
主なターゲット:
大腰筋
腰痛。
後頭下筋
首・頭痛。
夾脊穴
脊柱周囲。
第2章 臨床モデル
ここが実践編です。
① ぎっくり腰・慢性腰痛
一般的には、
「痛い腰に刺す」
ですが、本書では、
見る場所:
- 大腰筋
- 骨盤
- 神経反射
- 体幹バランス
。
考え方:
腰痛部位=原因
ではない。
② 肩こり・頭痛
肩を揉むだけではなく、
原因候補:
- 頚部
- 斜角筋
- 後頭下筋
- 自律神経
を見る。
肩こり患者に胃弱や胃下垂モデルを出している点も特徴です。
③ 坐骨神経痛
重要ポイント:
「坐骨神経痛=神経だけの問題」
ではない。
見るところ:
- 腰椎
- 大腰筋
- 梨状筋
- 神経走行
。
特に、
椎間板ヘルニアだから痛い
↓
ではなく、
身体がどう神経刺激を起こしているかを見る。
この本の臨床的な価値
良いところ
① 治療の「型」が作れる
経験だけではなく、
「なぜそこに刺すか」
を説明できる。
② 腰痛治療家にはかなり参考になる
特に、
- 坐骨神経痛
- ヘルニア後遺症
- 慢性腰痛
には考え方が使いやすい。
③ 解剖学と鍼をつなげている
東洋医学だけでもなく、
現代医学だけでもない、
中間的な臨床理論。
注意点
この理論は著者独自の臨床体系です。
つまり、
「すべての腰痛は大腰筋」
「すべての肩こりは斜角筋」
という意味ではありません。
患者さんごとに、
- 神経症状
- 関節状態
- 心理要因
- 内科疾患
なども考える必要があります。
一言でまとめると
この本は、
「痛い場所を治療する鍼」から、
「身体の制御システムを変える鍼」へ発想転換する本
です。
『実用鍼灸治療学 ― 鍼灸師のためのABC理論』中野保 著
中野先生の治療院 『二天堂鍼灸院』(神戸市東灘区)
中野先生主催の勉強会 『ほのしん講座』

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