神経系モビライゼーション(neurodynamicsまたはneural mobilization)は、神経組織の柔軟性や動きを改善するための徒手療法および運動療法の一種です。これは、神経系(中枢神経系や末梢神経系)が筋骨格系の動きに適応し、痛みや運動障害を軽減することを目的としています。
以下、詳細に解説します:
基本概念
神経系モビライゼーションは、神経が筋肉や骨、周囲の組織を通じて適切に滑走できるようにする技術です。通常、神経は身体の動きに応じて伸びたり、滑ったり、圧縮されたりしますが、怪我や慢性的なストレスにより神経組織の可動性が制限されると、痛みやしびれ、動きの制限が生じることがあります。
神経系モビライゼーションの目的
- 神経組織の滑走の改善
神経が周囲組織(筋肉、腱、骨膜など)との摩擦を最小限にし、スムーズに動けるようにする。 - 循環の改善
神経の動きを確保することで、神経を取り巻く血流を促進し、酸素や栄養を供給しやすくする。 - 痛みの軽減
神経の圧迫や過剰な牽引が原因で生じる痛みを和らげる。 - 神経機能の回復
神経伝導が正常に行われるように調整する。
理論的背景
神経モビライゼーションの理論は、David ButlerやMichael Shacklockといった研究者が提唱した「neurodynamics」に基づいています。この理論では、神経組織が以下の2つの状態を考慮します:
- メカニクス(Mechanics):神経が伸び縮みや滑り、圧縮される特性。
- 生理学(Physiology):神経組織内の血流や神経伝導の働き。
これら2つが調和していない場合、神経の「張力増大状態」が生じ、症状を引き起こします。
適応症例
神経系モビライゼーションは、以下のような神経関連症状に有効です:
- 坐骨神経痛
坐骨神経の滑走が悪化している場合に、坐骨神経モビライゼーションを用います。 - 手根管症候群
正中神経をターゲットにしたモビライゼーションで症状を軽減。 - 頸椎性神経根症
頸部神経の圧迫や可動域制限の改善に。 - 胸郭出口症候群
腕神経叢のモビライゼーションで血流と神経伝導を促進。 - 慢性疼痛
長期的な神経過敏状態の緩和。
具体的なテクニック
神経モビライゼーションには「スライディング(滑走)」と「テンショニング(牽引)」の2つの主な方法があります。
1. スライディングテクニック
- 目的:神経を周囲組織内で滑らせる。
- 方法:身体の一部を動かして神経を伸ばす一方で、他の部分を緩めてテンションを減少。
- 例:坐骨神経では、足首を背屈しながら膝を曲げ伸ばしする動き。
2. テンショニングテクニック
- 目的:神経に軽度の張力を与えて、伸展耐性を高める。
- 方法:神経を最大限に引き伸ばして、牽引をかけた状態を保つ。
- 例:腕神経叢では、肩を外転・伸展しながら首を側屈。
施術中の注意点
- 痛みが強い場合は、テンショニングではなくスライディングを選択する。
- 神経の滑走が妨げられる位置での過度な牽引は、逆効果となる可能性がある。
- 徐々に負荷を増やすアプローチが推奨される。
エビデンスと研究
近年の研究では、神経系モビライゼーションが坐骨神経痛や慢性腰痛の痛み軽減に有効であることが示されています。また、手根管症候群などの末梢神経障害に対する有益性も確認されています。
ただし、個々の症例によっては効果が異なるため、適切な評価とカスタマイズされたプログラムが重要です。
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